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電車内での咳の連鎖はなぜ起きるのか。

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朝の通勤電車で発生した咳の連鎖に乗じて、目の前に座っていたの女性が小さくワンと吠えた。

けだるそうにスマホの画面を眺めながら、制服姿の男子高校生に、彼女はもたれ掛かっている。


世間一般で不思議ちゃんに分類されるような女子を発見してしまったぞと僕は思った。

そしてこうも思った。男子高校生よ、僕にその席を譲ってくれ、謝礼金は言い値で支払うと。


犬語を喋る彼女の発声は、よく合コンで、特技が犬の鳴き真似だと称して、

リアルな小型犬の鳴き声を披露する、頭の弱そうな女のそれとは一線を画していた。

お茶碗。そのワンと一緒の発音だった。頭の中の言葉がつい口から漏れてしまったような声だった。


そこが不思議ちゃんのらしさを増長させていると僕は思った。

そしてこうも思った。もしリアルな鳴き声だったならば、彼女は痛い子として認識されていたと。


彼女は側面から自身の体重を預けるのみならず、男子高校生の肩に自分の頭を乗せていた。

成人女性の頭の重さは4kg程度。可愛らしい荷重が彼の肩に掛かり、接点に熱量が溜まっていく。

不思議ちゃんの黒髪ショートが、男子高校生の顔のすぐ側まで迫ってて、ふたりは恋人のようだった。


これが朝の電車シートの特異性なの、と不思議ちゃんが僕にだけ教えてくれた。犬語で。

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